11月・12月・1月

~~~ミルク色のコチカ~~~

奮闘記 -91-

2008年12月



うらぶれチャッチャー


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12/6折り合いつける感心な猫 12/8日課 12/20紛失癖と不機嫌捜索癖 12/26落語は嫌いじゃ
12/27無言のカウンセラー 12/29世にも最低な音楽 12/31あっぱれコチカ


12月1日(月)

夜中。
ご飯を食べに行って戻ってきたコチカが、
頭の向うでゲボる気配があった。
わーどうしよう、起きなきゃ、と思いつつ、
目が覚めたのはアラームが鳴るちょっと前。
背を見せて横になっている夫が鼻をくんくんさせ、
コチカ、ゲボッた?と聞いてきた。
たぶん、と答えると、夫はがばっと身を起こして、
私にかぶさり越しにその証拠を確認し、
すばやい身のこなしでティッシュを取り、ブツを始末した。
しかし、
敷布団がわずかだけれど被害に遭っており、
起き抜けからばたばたとシーツをはがし、
布団カバーをはずし、
洗濯機へ放り込んだ。

思えば、
夜中に布団の上に吐くなんてことは意外にも初めてのこと。
ありそうなことなのに、なかったのである。
ではなんで、今回このような事態になったか。

布団の中に入ってきて、
心地よいぬくもりを享受している最中に、
私が動いたりして、邪魔されるのがストレスになったのだろうか。
十分考えられるのだけど、
うーん。
そんなこと言われたって、である。
お互いに慣れなければね。。



 *  *  *  * 


12月4日(水)

朝っぱらから房のついた鈴で盛り上がっている。
鈴が簡単に転がらないように、
ナイロンの荷ひもをつけてやったのだが、
ひもが裂けて、ふさふさになっている。
それが爪にうまく引っかかり、
はずすのに手を振ると、どこかに飛んでいき、
それをまた追いかけるのが楽しいらしい。
起き抜けでまだ頭がぼーっとしている人間の視界がかき乱されて、あーうっとうしい。。
と思っているところへ、
夫が、コチカ、トイレだぞ、と声をかけた。
動きまくって体が身軽になっているコチカは、
ヤだもーん、と飛んで逃げた。
コチカが行った方向に夫が歩き出すと、
それ!とばかりに別な方向に走る。
そんなところに抜け道があったのかと思うようなところを駆け抜ける。
それでも狭いリビングである。
もう行き場がなくなり、あとはキャット・タワーだけとなった。
窮地に追い込まれながらも意地を見せたいコチカは、
敏捷な猫の実力を発揮せんと、
キャット・タワーに飛びついた。
夫の目の前である。
あえなく3段目で御用。
ポンポコピッピョー、捕まえられにきてくれて、ありがとう!
と夫。
なんともお間抜けな最後ではありました。



 *  *  *  * 


12月5日(金)

夜、コチカは膝の上でくつろいでいたけれど、
ふと時計を見たら、定刻のご飯の時間を大幅に過ぎている。
ご飯しよ、時間過ぎちゃったよ、と言っても、
ちょっとばかり手をもみもみするだけで、動こうとしない。
もうしばらく待ってから、さ、ご飯、とお尻を浮かせると、
コチカは仕方なく降りた。
ご飯を用意してやって、
ご飯したよ、カツオブシもたーくさんしたよ、お食べ、
と言っても、テーブルの下に座ったまま動かない。
どうしたのだろうと思いつつも放っておいたら、
結構強い調子でにゃあにゃあ鳴き出した。
でも、何を訴えているのか、さっぱりわからない。
しかたなく放っておいたら、ご飯を食べに行った。
そしてタコツボに入って、丸くなって静かになった頃、
しゃくりあげて吐き戻した。
何故?
何がいけなかったの?
もっと膝の上にいたかったの?
うーん。。



 *  *  *  * 


12月6日(土)

折り合いつける感心な猫>

来客。
キャット・タワーの割合近くに籐椅子を置き、
お客さんに座っていただいた。
いつもの空間が縮まったかのように感じられているだろうコチカは、
案の定キャット・タワーから降りてきて、
嫌だー、落ち着かない〜、と文句を言いに来た後、
どっか行くー、と廊下へ続くドアの周辺をうろうろしていた。
しかし人間が誰も請合わないでいたら、
しぶしぶ戻ってきて、和室にいようかどうしようか迷ったようだけど、
私の足元に座り、お客さんの顔をじーっと見ていた。
コチカの苦手な男性だけれど、物腰のやわらかい静かな人である。
だからだろう。
まあ、いいかも、と思ったらしいコチカは、
キャット・タワーを駆け上がり、最上階に落ち着いた。
猫がそれなりに考えて、
人間や空間と自分の精神とに折り合いをつけるあたり、
面白くもあり、感心もし。



 *  *  *  * 


12月8日(月)

<日課>

朝、起きるとコチカはソファに座った私の膝に来る。
考えてみれば・・考えてみなくても、
夕方、コチカは一旦起きて、タコツボから抜け出し、
ソファに座る私の膝に来る。
ということは、長い就寝時間に区切りをつけたときには、
私の膝に来て、よしよしされるのが日課のひとつとなっているのか。
ということに、今頃気がついた。
いったいいつからこういうことを続けていたのだろう。。


バケツの中でご満悦


 *  *  *  * 


12月10日(水)

夜中。
コチカは布団の中で私の腕に手をかけていた。
コチカとは反対方向に寝返りを打ちたくなった私は、
どうしようかと考えたけれど、
もうずいぶんさっきにもそうしたかったことを思い出し、
自分優先でそろそろと方向を変え始めた。
コチカが釣れて(?)くるのがわかる。
体の向きが完全に横になろうとしたとき、
コチカの体がさらに重く感じられた。
でももうここでやめられない、と体を若干前に傾けると、
ふと腕が軽くなった。
コチカが爪をはずしたのである。
やれやれ。
コチカとくっついて寝られるのは嬉しいけれど、
抱き枕として人の体をしつこく利用すんの、やめてね。



 *  *  *  * 


12月12日(金)

明け方・・でもないか、朝の4時ごろ。
寝室に戻ってきたコチカは、
私の枕元に座り、ひや〜、と声をあげた。
夫の方を見ている。
○〜○○寝てるから、静かにしよ、ちゃちゃも寝よ、
と声をかけると、ええいうるさい、と目を閉じ、
またひや〜、という。
人間二人が寝ていて、寝室の空気がしんとしてるからか、
声も遠慮がちなのがかわいいけれど、
でも、なかなかやめずに、ずっとひや〜と言っているのでは、
私は寝られない。
どうしたの?ウ○チ?お水?鈴?
ときいても、知らん顔をしている。
でもまさか、ご飯?と言ってみたら、
急に嬉しそうな顔をし、肘から立てていた私の手にすりすりした。
こんな時間にご飯がなくなるなんて、珍しいこと。
では行ってあげようと、と立つと、
もう嬉しくて嬉しくて、私のすねに、そばに置いてある棚の足に、すりすりを繰り返している。
私の足にまとわりつきながら、台所に行き、
ご飯をもらうと、黙々と食べ始めたので、私は寝室に戻った。
すると、おなかの満足したコチカは、一人で運動会を始めた。
居間から開けっ放しのドアを通り抜けて、
玄関までダッシュを繰り返している。
そういえば、寝る前にもこんなことをやってたような気がする。
運動してるのは感心だけど、これじゃ、おなかすくよねえ。
これってもしかして毎日やる?



 *  *  *  * 


12月15日(月)

夕方、ソファに座る私の膝に、
右側から飛び上がったものの、
どういうわけか、爪がうまく引っかからずに、
私の右足を超えて、膝の間からするりと落っこちてしまった。
あれ?という顔をし、もう1回右側に戻り、
今一度、飛び上がった。
今度は普通に上がれたけれど、
さっきはどういうわけだったのだろう。
爪を立ててはいけない、と思ったのだろうか。
それにしても、私の着ている衣類はそんなに滑りやすい???



 *  *  *  * 


12月16日(火)

昨夜。
さあそろそろ寝ようという頃、
コチカは困ったような鳴き声を上げ、
ソファの下などを覗いたりして、うろうろしている。
また鈴を探しているのだな、と思いつつトイレから出ると、
ちょうど鉢合わせになった。
コチカは吊りあがった目を向けて、鈴は!と聞いてきた。
朝、遊んでたでしょ、どこやったのよ。
とこれは人間同士でも言い合って、
わかってたら探さないよ、とケンカのネタになる台詞である。
苦笑しながら、どこやったの?と一緒に探すふりをして付き合う。
夫が、あ、そういえば、と言いながら、
テレビラックとスピーカーの隙間を覗くと、あった。
コチカには手の届かない場所らしかった。
ほら、あったぞー、と放り投げると、
ありがとう、でもなく、最短距離を猛ダッシュ。
ったく猫って気楽よねえ。



 *  *  *  * 


12月18日(木)

睡眠不足で朝から眠たく、
それでも寝ているわけにもいかないので、
自らを叱咤激励しつつPCに向かってパチパチやっていた私。
文章の前後左右の順序(?)を考えていたところ、
コチカが和室の端へ行き、聞いたことのない音を立て始めた。
何かが壊れていくような危険を伴った音である。
思わず、コチカ!コチカコチカ!と大声で呼んだ、その声ではっと目が覚めた。
およよ、と周りを見渡してみると、
ガラスのテーブルの下で寝そべってるコチカが、
顎をラグにつけたまま、じろっ、と私を見上げていた。
なんと私は夢を見ていて、その中での危機感に大声をあげたのだ。。
あーあ、やっちゃった、と我ながら呆れていると、
コチカは小さくため息をつき、少しだけ手の先を舐め、
私から目をそむけて、寝てしまった。
悪いわねえ、おバカな飼い主で。



 *  *  *  * 


12月20日(土)

<紛失癖と不機嫌捜索癖>

最近は、日に3回は鈴で遊ぶようになった。
しかしその鈴がすぐに見つからない。
いつも鈴を探し回っている。
初めのうちこそ自分で黙々と探しているが、
そのうち、にゃお〜、と声を上げるようになり、
いよいよ頭に来ると、にゃあ!と私に言う。
こういうことって飼い主に似るのだろうか。
夫もいつも何か探している。
初めは黙々と一人で、そのうち、あれー?と言い出し、
次には私に訴え、
ついうっかり、知らないよ、どこやったのさ、などと言おうものなら、
わかってたら探さないよ!、と不機嫌な文句が連発して飛んでくる。
コチカは、鈴がない!と言うことしか言わないけれど、
不機嫌になっていく順序がどこか似ているのだ。
そんなところ、真似しなくていいのに。
あるいは、生き物ってそういうもの?


鈴、知らない?・・と膝の上に言いに来る


 *  *  *  * 


12月22日(月)

昨日録画したNHKで放映された「ターシャからの伝言」を観た。
ターシャとは、今年の6月18日に92歳で亡くなった、
アメリカ全土で愛されている絵本作家である。
57才のときにアメリカのバーモント州に東京ドーム6倍もの土地を買い、
子供の頃からの念願だったいわゆるガーデンを作った人で、
いろんな種類の花を咲かせて見事な花園を作り上げる手腕に、
憧れを抱くガーデナーが世界中にいる。
私も彼女の自然への対し方、考え方や、
四季それぞれを独特のやり方で完璧なまでに楽しむ方法に惹かれ、
番組が組まれるごとに観ているが、

コチカが夕方の挨拶代わりに膝に乗ってくる頃、
番組も後半で、じわじわと感動の波が胸に迫っているところだった。
私の膝の上で、腕を折り曲げてくつろぎながらも、
感慨深げに画面に夢中になっている私を、
もの珍しいものを見るかのように、じっと見上げている。

番組のほぼ最後で、
日本でもターシャの絵本が広く愛されていることに、
こんなことになるとは思わず、大変に嬉しく思い、感謝している。
このことを必ず日本の人たちに伝えてね、ずっと忘れないってね。
と日本の取材陣に話しているところで、とうとう涙があふれた。
才能があるとはいえ、辛いこともいろいろある中で、
子育てしながら好きなことを続けてきての成功なのだ。
人は誰でも待つことを覚えれば、夢は絶対叶うものなのよ、
というのもターシャからの伝言のひとつだけれど、
忘れないからね、といいながらいたずらっ子のようなお茶目な笑顔を見せたターシャから、
細く小さな体に似合わない大きな尊さが伝わってきて、深く感動したのだった。

コチカは、私の様子をずーっと見ていた。
その目は、明るくもないのに虹彩が細くなっていて、
まるでワニのような少々恐い表情なのだけど、
家族をじっと見守る目は、むしろこんなだな、と思ったら、
こちらはこちらでありがたく思えて、余計涙が出てきた。
コチカは、私の感情の大きさを受け止めきれなくなったのか、
うわーんとあくびを3回も繰り返した。
そして、ありがとうの代わりに頭を撫ぜてやったら、
しばらく両手の上に顎を乗せて休み、
それから毛づくろいを初め、膝の上では手狭でこれ以上は無理、
というところで下に下りていった。

今日もまた眠くて仕事のはかどらない日だったけれど、
このことだけでとても充実した1日になった気がした。



 *  *  *  * 


12月23日(火)

夜中。
コチカはかっちり脇の下に丸く収まっている。
でも私は寝返りを打ちたくなった。
ちらりとコチカを見ると、なんと彼は起きていて、
やだかんね、動かないからね、という意思の詰まった目を向けている。
およよ。
よくわかったな、と思いがけず強い眼力にだじろいだけれど、
でも私はコチカがいる側とは反対を向きたい。
でもこの目である。
寝返りは打ちたいけれど、それも半分夢の中での話である。
どうしようか、という思いも薄れてきた。
要するに、私は負けたのだ。

朝になって、先に居間に来ていたコチカは、
私が来ると、にゃ、とかわいく声をかけてから、すりすりしにきた。
おはようおはようと言いながらおなかを軽くぽんぽんしてやっていると、
急に顔を上げて、す〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ず〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
と言った。
やけに低いどすの利いた声である。
何さ、藪から棒に。
ちょうどそばを通りかかった夫が、すぐに見つけ、
ほら、2つあったぞ、と鈴を2つとも放り投げた。
ハッスルして飛び掛るコチカ。
リリリリ、ざさざざ、かちかちと騒音が巻き起こる。
あーうるさ。。
こうして寝ぼけた脳ミソをコチカに攪拌されながら、今日一日が始まったのでした。



 *  *  *  * 


12月25日(木)

クリスマスだというのに、夫は今日は遅いので、
私はちょっと早めに自分のご飯の支度をしていた。
一人じゃつまらない、と思うもののおなかがすいていると、
やはり台所に立つのも楽しい。
冷蔵庫から思わず掘り出し物(?)を見つけ、
ほっほっほっほ、という気分でテーブルをセッティング。
さて、いただきましょう、と台所の電気を切って出てくると、
コチカが、うにゃ〜、と後足を伸ばして伸びをしながら、
タコツボから這い出てきた。
あらー
悪いところに起きてきたな。
おはようの挨拶代わりにソファに座る私の膝に乗ってくつろぐのが毎日の習いなのである。
だから逃れられない気がする。
でもお味噌汁の湯気がおいしそうである。
どうしようか。。
コチカはテーブルの椅子に手をかけた私の足にすりすりを繰り返している。
このまま椅子に座ったって、私の膝に乗りたいコチカは、
レギンスに手をかけ、怒ったみたいな目を向けて、
にゃー!を繰り返すだろう。
仕方がない。
だいじだいじのコチカさまのために、私はソファに座り、
おいで、ぴょーんって、と誘った。
コチカはぴょーんとやってきて、
それからちゅーを2回から始まって首回りをよしよしして、
膝の上で両手を折ってくつろぐ。
今日はどれだけかかるのかな。
テーブルの上に上がる湯気を見ながら、ちょっとばかり憂鬱な私でした。
感心な飼い主でしょ?



 *  *  *  * 


12月26日(金)

<落語は嫌いじゃ>

5代目桂米團治(桂米朝の息子である小米朝)の襲名披露のVTRを観ていた。
京都南座での落語界の重鎮の面々による口上の後に、いよいよ5代目の初舞台である。
私はこういう襲名披露初舞台なるものが大好きなので、腰を据えて集中するつもりでいた。
するとキャット・タワーの最下階のタコツボで真昼の惰眠をむさぼっているはずのコチカが、
うーーーーー、と低く声を上げた。
何が言いたいかは薄々わかる。
気にしながらも無視していると、今一度、うーーーーーーー。
うるさいのだろう。
男性が言う、猫にとっては意味を成さない落語の言葉の羅列が、
地響きのようにずらずらずらずらと耳に障るのだ。
一旦気にしてしまうと、落語も100%楽しめない。
不本意ながらも音量を絞った。
耳をすましながら聞く落語なんて迫力なくて面白くない。
しかしながら私もうるさい物音には絶えられない方なので、
コチカの気持ちはよくわかる。
音楽は好きだけれど落語は嫌いなのだ。
一緒に暮らしているのだから、わかってやるべきだろうな。
わかったよ。
静かに聴くからね。
コチカにとっては一件落着だろうけれど、
ではでは私はこれから落語をどのように聞くべきか。
大問題である。



 *  *  *  * 


12月27日(土)

<無言のカウンセラー>

ちょっとした心配ごとがあって、朝から午後にかけて悶々としていた。
まあ大丈夫だろうと自分を励ましつつ、なるべく知らんぶりしているつもりではあったが、
誤魔化せない自分を感じていた。
そんな心の裡を猫はわかるのだろうか。

コチカは珍しくタコツボに入らずにテーブルの下で両手の上に顎を乗せて、
そういえばちらちら上目遣いに私を見ていた。
お昼を食べてから夫は出かけて行った。
もとより今日は土曜なので、暇にかまけてぼんやりしていると、
これまた珍しく、まだ早い午後だというのに、
コチカがソファに座る私の膝の上に乗ってきた。

ちゃーちゃ、と言いながら撫ぜていると、だんだん気分が落ち着いてくる。
コチカは偶然ながらまたもや珍しく、私の方を向き、両手を曲げて落ちついた。
そのまま互いに40分くらいもまどろんだだろうか。
電話が鳴り、それは心配していた人からであり、
心にかかっていた暗い雲がきれいさっぱり拭われた。
ほっとした私は、じろりと睨んだ顔のコチカを、ちゃーちゃ、といっぱい撫ぜた。

・・・というような人間の気持ちがどのように猫に伝わるのだろうか。
コチカは膝の上で右手をうーんと伸ばし、
まだ少し曲がったままの左手を舐め、
私をちらりと見てから、うわーんとあくびをした。
そして床を見定めるようにし、着地点を見つけたらしく、
膝からぴょーんと降りていった。
お役目ごめ〜ん、とでもいうように。

いったい猫はいつも飼い主のことをそれとなく見ているのだろうか。
ただ見ているだけではなく、心の裏表を見抜いているのだろうか。
背後にいるらしい霊も見えるのだもの、
オーラでもなんでも見えるんじゃないの、と夫はいうけれど、
実際にそうなのかも知れなくて、オーラの色やら心模様やらを見ているのかも知れない。
そこまでわかっているからこそ、コチカは寄り添いにきてくれるのだろう。
何も言わない代わりに、じろりと無愛想な目線を投げかけて。



 *  *  *  * 


12月29日(月)

<世にも最低な音楽>

帰宅してすぐに車の中で聴いていたCDをかけた。
フィギュア・グランプリや日本選手権でさんざん聞いた、
真央ちゃんと織田信成が踊ったハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」である。
この曲の入ったCDがすごく売れているというけれど、私も買った。

ハチャトゥリャンの管弦楽曲集で、人気のある曲の抜粋である。
帰宅途中の車の中で聴いていたのだけど、
舞踏音楽「ガイーヌ」の「レズギンカ」という曲のパーカッションが面白いので、
家のスピーカーだったらどんな風に鳴るのかと、
部屋にたどり着くなり、オーディオのスィッチを入れた。

帰ってきた私によしよししてほしくて、早くソファへと促すコチカ。
言われるままにソファに腰を下ろすと、さっそく膝の上に乗ってきた。
首筋を撫ぜてもらって、目を細めようとしたそのときに、
いきなり乾いた音のパーカッションが激しく鳴り始めた。
首を伸ばし、うっとり細めようとした目を、かーっと開き直し、
何このうるさい音楽は!という顔を私に向けるので、噴出してしまった。

この手の音楽は嫌いなんだよねコチカは。
同作曲家の「剣の舞」なんかは、最悪最低だろう。
車の中で聞かせたら、いくらも走らないうちに嘔吐するに決まっている。
だから自宅でもかけないようにしている。
派手で華やかでかっこいいんだけどな。
だからせいぜい人間が帰宅して、
物を片付けたりわさわさしている状況の中で鳴らすくらいは我慢してね。

ちなみに私が買ったCDは、ワーナーミュージック・ジャパンから出ている、
ロシアの名指揮者ラザレフが、ボリショイ響と録音したもので、
パーカッションと金管楽器がメリハリがあって絶妙。
すっごく土臭くて、名演なのでお薦めです。
1050円と廉価だし。
真央ちゃんと織田信成が使ったのは、
キリル・コンドラシン指揮、RCAビクター交響楽団。



 *  *  *  * 


12月30日(火)

母が来た。
これからお正月過ぎまで一緒に過ごす予定である。
それがコチカは気に入らない。
私のところに何度も苦情を申し立てにくる。
私のすぐそばに猫の正座をきっちりし、
ふぁ〜ん、と少々力なく言うのである。
お母さんとね、しばらく一緒だよ、
と3回も言うと、ぱっかーとあくびをする。
どうやら話が通じてうんざりするらしいのである。
お気の毒様。
さぁてどうやってストレス解消していきましょうかね。



 *  *  *  * 


12月31日(水)

<あっぱれコチカ>

昨日の寝る時間。
私は寝室からトイレに行った。
コチカは私と一緒に寝室を出たらしかった。
夫が来て、
コチカはトイレの前にじっと座っていたけれど、
私が寝室に戻ったことを知ってるのかな、と言っていた。
コチカはなかなか来ない。
夫は台所に海苔を置いたことを思い出し、
もしかしてそれを狙ってるのかも、ともう一度見に行った。
戻ってくると、
海苔は無事だけど、コチカはまだ同じところに座っているという。
どうも気になる、としばらくしてからまた見に行った。
するとコチカがクローゼットのドアの下をじーっと見ていることに気がついた。
もしや、と思い、クローゼットを開けると、
ドアの下の隙間から入り込んだらしい、金色のモールを見つけた。
これでしょ?とコチカに見せると、
コチカは、みゃ!と声を上げた。

思えば、コチカは寝室でかけまわっていた。
そうか、モールで遊んでいたのね。
そのまま廊下に出ていき、モールはドアに下に入ってしまった。
それでコチカは見えないモールの行方を見つめていたのである。
あんなにも長い時間。
見つめていたら、どうにかなると思っていたのだろうか。
でもその行為は確かに功を奏した。
夫に無言のメッセージを送りつけ、目的を達成したのだから。
猫って本当に大した生き物である。



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